
声は出てる。でも、響かない。届かない。
そんなあなたに必要なのは、発声の「4ステップ構造」です。
本記事では、ミュージカル俳優の多くが取り組む、“通る声”を作るための手順の全貌を紹介します。
最後まで読むことで、声に関する悩みの本当の原因が、きっと見えてきます。
本記事では「ミュージカルの発声」や「歌い方」について解説していますが、主に取り上げているのは、『オペラ座の怪人』『ミス・サイゴン』『リトル・マーメイド』など、ブロードウェイ系の王道ミュージカルにおける発声法です。
近年の日本では、2.5次元ミュージカルやアニメ原作の作品など、多様なジャンルの舞台が増えています。
しかし、ブロードウェイ作品と2.5次元作品とでは、楽曲の構成や求められる発声の質が大きく異なるため、「ミュージカルの歌い方」といっても一括りにはできないのが現状です。
この記事では、あくまでブロードウェイ系のクラシカルな楽曲に焦点を当ててお話ししていきますので、その点をあらかじめご理解いただければ幸いです。
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それでは、さっそく本題へ入りましょう。
声楽の4つのフェーズ

ミュージカルの発声や歌い方を本格的に学ぶには、まず知っておくべきことがあります。
それは、発声が次の4つのフェーズから成り立っているということです。
- 身体能力
- 呼吸
- 丹田の意識
- コントロール
この4つは、それぞれが独立した技術ではなく、すべてが密接につながっています。
どれか一つでも欠ければ、ミュージカルの歌唱は成立しません。
確実に、段階的に、すべてを習得する必要があります。
中でも、多くの初心者がつまずくのが「①身体能力」と「③丹田の意識」です。
「呼吸」や「コントロール」に関する情報は、ブログや動画でも多く紹介されており、見たり読んだりしたことがある方も多いでしょう。
ですが、それらを見て「実際に自分の声が変わった」と感じた人はどれほどいるでしょうか?
おそらく、答えは「ほとんどいない」でしょう。
表面的なテクニックや知識だけでは、本質的な変化は得られません。
広告収入を目的とした浅い情報をいくら見ても、ミュージカルの発声法に辿り着くことはできないのです。
まず最初に理解しておくべき大切なポイントは、声楽の土台は「ボディーバランス」にあるということ。
そして「③丹田の意識」に辿り着くには、まずこのボディーバランスを整える必要があります。
つまり、身体の使い方を誤ったままでは、どんなに練習しても本来の声には届かないということです。
では、①〜④まで順をおって説明しましょう。
①発声における身体能力

声楽は身体が楽器であること知ってる?
声楽において身体能力・ボディーバランスの良し悪しと歌唱力は直結します。
これは簡単に言うと”声楽は身体が楽器”ということです。この基本を知らない人がとても多いように思えます。
この基本を知っていたとしても、大半の人は、身体能力を上げることが可能であることを知りません。
プロスポーツや格闘技の現場では、ボディーバランスの向上は最優先課題として取り組んでおり、実際に世界と戦える選手が多くなったのは周知の事実です。
しかし声楽の現場では、まだまだ浸透していません。
人間は皆生まれながらにして、スタインウェイ&サンズ(ピアノ)、ストラディバリウス(バイオリン)、セルマー(サックス)だと思っているのかもしれません。
これは大半の声楽指導者が、身体能力について言及できるだけの知識がないという問題もありますが、歌い手自身が”歌は誰でも歌えるという思い込み”があるからではないでしょうか。
体幹(コア)の筋肉が非常に重要である理由
ミュージカル俳優にとって、発声は一番重要なスキルであり、そのためには身体能力が大きな役割を果たします。
ミュージカルでの歌唱は、感情表現と技術の両方が求められますが、一般的な運動能力を遥かに超えた呼吸器官の動きによってブレスコントロールを使うことになります。
そのためには、それに適した身体構造・身体能力があることが前提となります。
歌手の身体は、呼吸器官、声帯、共鳴腔、筋肉、姿勢、そして感情を一体化して音を生み出す”生きた楽器”であり、各要素が正しく調和することで、豊かで感情豊かな歌声が作り出されるという認識を持たなければなりません。
歌うことは、単に声を出すことではなく、身体全体を楽器として使い、内面の感情を表現する高度な技術なのです。
しかし、なぜ身体全体なのかについてピンとこない人も多いでしょう。
知識がない人であれば、声帯などの発声器官を鍛えれば歌唱力が上がると思うこともあるでしょう。
また音大の声楽科や専門学校などで本格的な声楽レッスンを受けた人であれば、呼吸筋や横隔膜の使い方を変えることで歌唱力が上がると思うかもしれません。
しかしそれでは、残念ながら不完全なのです。
それは、呼吸筋や横隔膜を最大限に活用するためには、体幹(コア)の筋肉が非常に重要であるという認識と下半身の筋肉の安定性と強さに対する知識と認識が絶対的に不足していることです。
体幹と呼吸の関係性

体幹を鍛えることは、呼吸の安定に大きく寄与します。
体幹を構成する筋肉(特に横隔膜や腹横筋などの深層筋)が強化されると、呼吸が効率的かつ安定したものになります。
横隔膜が強くなることで、吸気と呼気がよりスムーズかつ深く行えるようになります。
体幹を支える筋肉の腹横筋、内外腹斜筋、多裂筋などは、呼吸筋と協力して働いています。
これらの筋肉が強化されると、呼吸に伴う体幹の動きがスムーズになり、深い呼吸がしやすくなります。
腹横筋や腹斜筋が強くなると、呼吸に合わせて腹腔内圧を適切にコントロールできるようになります。
この腹腔内圧が安定すると、呼吸が深く安定しやすくなります。
この機能は、特に演技やダンスと同時に歌う際に重要です。
そして体幹が強くなることで、姿勢が改善されます。
猫背や腰の反りといった姿勢の問題は、呼吸を浅くしたり、胸郭を圧迫したりする原因となりますが、体幹を鍛えることでこれらの姿勢が改善され、胸郭が開きやすくなるため、呼吸が自然に安定するのです。
特にバレエ経験者の反り腰は深刻で、私たちも生徒の反り腰を治すのに苦労しています。
さらに重要なことが下半身の筋肉です。
体幹の筋肉を安定させるためには、下半身の筋肉の安定性と強さが非常に重要です。
下半身の筋肉が適切に機能している場合、体全体のバランスが取りやすくなり、体幹もより効果的にサポートされます。
ですから、下記のような状況が理想的です。
脚の筋力が十分に強い
大腿四頭筋、ハムストリングス、内転筋、外転筋といった主要な下半身の筋肉がバランスよく発達していると、体全体の安定性が向上し、体幹に過度の負担をかけずに済みます。
股関節の柔軟性と安定性
股関節の柔軟性と筋力がしっかりしていると、動きの中で体の軸がブレにくくなり、体幹が安定します。特にお尻の筋肉(大殿筋、中殿筋)が強くなると、体幹を安定させやすくなります。
足首と膝の安定性
足首や膝がしっかりと安定していることで、重心が安定し、体幹がバランスを保つための土台が強固になります。
全体的な筋バランス
下半身の筋肉のバランスが良く、偏った使い方や負担がない状態が理想です。片側の筋肉が弱いと、体幹が過度に使われてしまい、結果として不安定になる可能性があります。
これらの要素が整っていることで、体幹の筋肉も安定し、より効率的に働くことができるようになります。
さらに下半身の筋肉は骨格と大きな関連性があります
下半身の骨格と横隔膜は、体の姿勢維持や呼吸の質に深い関係があります。
骨盤や腰椎の正しい位置と強い筋肉が、横隔膜の機能を最大限に引き出し、効率的な呼吸と姿勢の安定を助けます。
ですから『①発声における身体能力』の最後の説明として骨格と下半身の筋肉のバランスについて詳しく説明します。
骨格の構造と役割

下半身の骨格には、大腿骨、脛骨、腓骨、骨盤、足の骨などが含まれます。
これらの骨は、体重を支え、歩行やジャンプといった動作を可能にするための土台です。
骨格は股関節、膝関節、足関節などを介して筋肉に支えられ、スムーズな動きや安定性を確保しています。
筋肉と骨格のバランスの重要性
下半身の筋肉が均等に発達していることで、骨格が正しい位置で維持され、体全体のバランスが取れた動きが可能になります。
下記は筋肉と骨格のバランスがどのように影響するかの具体例です。
- 筋力のアンバランス
例えば、大腿四頭筋がハムストリングスに対して強すぎると、膝の前後のバランスが崩れ、膝の痛みや怪我のリスクが増加します。 - 姿勢の維持
骨盤が前後に傾いてしまうと、腰や背中に負担がかかり、腰痛や姿勢不良につながります。骨盤の安定には、大殿筋や中殿筋が適切に機能することが重要です。 - 可動域と柔軟性
筋肉が硬くなると、関節の可動域が制限され、動きが不自然になったり、怪我のリスクが高まります。柔軟な筋肉が骨格を適切にサポートすることが必要です。
横隔膜の機能と位置
横隔膜は胸腔と腹腔を分ける主要な呼吸筋で、息を吸うときに収縮して胸腔を広げ、息を吐くときに弛緩して胸腔を狭めます。
横隔膜は背骨や肋骨、そして胸骨に接続しており、その下には腹部の筋肉群があります。
下半身の骨格と横隔膜の連携
骨盤と脊椎については、私たちがレッスンを行う上で最も重要視している身体のパーツです。骨盤と脊椎の問題を改善することで発声が飛躍的に伸びます。
骨盤

下半身の骨格である骨盤は、横隔膜と深い関係にあります。
骨盤は体の重心を支えるために重要であり、骨盤の位置や傾きは横隔膜の動きに影響を与えます。
例えば、骨盤が前傾したり後傾したりすると、横隔膜が適切に機能しにくくなり、呼吸が浅くなることがあります。
実はプロでも骨盤の位置が問題で伸び悩んでいる人が多くいます。
これを改善することでこれまでよりも高いレベルで発声することができるようになっております。
脊椎(腰椎)

脊椎は、骨盤と胸腔をつなぐ大きな構造で、横隔膜の後ろ側に沿って走っています。
脊椎の適切な位置や動きは、横隔膜の働きに影響します。
横隔膜が腰椎と連動することで、腹圧(腹腔内の圧力)が高まり、腰椎を支持し、体幹全体を安定させます。
腰椎が硬くなったり、姿勢が崩れると、横隔膜の動きが制限されることがあります。
横隔膜と腰椎は、呼吸と体幹の安定性という両方の機能において密接に連携しており、健康的な姿勢の維持や腰痛の予防において非常に重要な役割を果たしています。
姿勢と呼吸の相互作用
下半身の骨格、特に骨盤の位置は、体全体の姿勢に影響を与えます。
正しい姿勢は横隔膜がスムーズに上下に動くことを助け、呼吸の質を向上させます。
一方で、骨盤が適切な位置にないと、呼吸が制限される可能性があり、横隔膜の機能が低下することがあります。
腹部の筋肉との連携
腹部の腹直筋、腹斜筋、腹横筋は、横隔膜と一緒に働いて、呼吸時に腹圧を調整します。
下半身の筋肉や骨格が強く安定していると、腹圧が適切にコントロールされ、横隔膜の機能がより効果的になります。
例えば、スポーツ選手が下半身を強化すると、呼吸能力や体幹の安定性が向上する理由の一つです。
ここまでが、『①発声における身体能力』の説明となります。
どれだけ、あなたの身体の状態が発声に影響を及ぼすのかが少しご理解いただけたのではないでしょうか。
②呼吸

ミュージカルの発声や歌い方の基盤は正しい呼吸法にあります。
腹式呼吸を習得することが大切で、これはお腹の筋肉を使ってしっかりと息を吸い込み、コントロールされた息を吐き出す技術です。
これにより、強力で持続力のある声を出すことができます。
呼吸筋や横隔膜を鍛えることで、長時間のパフォーマンスでも安定した発声が可能になります。
腹式呼吸
ミュージカルの歌い方の基本は”腹式呼吸”です。
これは、肺を効率的に使って十分な空気を吸い込み、横隔膜を活用して呼気をコントロールする方法です。
胸だけを使った浅い呼吸でだる胸式呼吸ではなく、腹部を使って深く息を吸い込むことが特徴です。
なぜ腹式呼吸なのか?

腹式呼吸では、横隔膜を最大限に使うことで、肺に十分な空気を取り込み、安定した息の流れを維持できます。
ミュージカルを歌う時には、ものすごい量の空気を使用します。
ミュージカルでは、歌手が豊かな感情表現を求められ、幅広い音域と声の質感が必要です。
この表現は全てブレスコントロールで行うので、シンプルに空気がたくさんないと出来ないのです。
多量の空気は、長いフレーズや音域の広い音楽を歌う際に必須ですが、それだけではなく声帯への負担を減らし、喉のリラックスを保つことができます。
ロングラン公演などでは、声帯への負担をいかに減らせるかが演者にとっては重要な課題です。また最近では一年中風邪が流行するような事態になってしまっているため、喉を健康な状態に保つことが難しい時代に突入していると言えます。
正しい呼吸法での発声は、声の強弱やニュアンスを豊かに表現でき、感情的なシーンでの歌唱が一層効果的になります。
声が滑らかに変化するため、聴衆に自然な感覚を与えます。
ミュージカルやストリートプレイを観に行くと逆に不自然な感覚を与える俳優もおります。皆さんもそういう経験があるのではないでしょうか。
そういった俳優は単純に呼吸が浅く声ががさつでわざとらしい言葉の発声が目立ちます。
腹式呼吸の利点
- 広い音域をカバー
腹式呼吸を使用することで、音域が広がり、さまざまな楽曲や役柄に対応できます。 - 声の安定感
腹式呼吸を使うと、声が安定し、強い高音を楽に出せるようになります。これにより、観客に対して一貫したパフォーマンスを提供できます。 - 声の疲労軽減
浅い呼吸で無理に高音を胸声で出そうとすると喉に負担がかかりますが、腹式呼吸を使うことで、力まずに高音を出すことができ、喉を守ります。
腹式呼吸の方法
ここまで腹式呼吸の説明してきて何なのですが・・・
実は私たちのレッスンでは”腹式呼吸”という言葉は使っていません。しかも呼吸だけの練習は行っておりません。
『①発声における身体能力』で説明した骨格や筋肉を改善するエクササイズを繰り返し行うことで自然と腹式呼吸ができるようになるからです。
ここでは一般的に教えられている方法だけ記載します。
皆さんもどこかのブログやらyoutubeで見たことあるかもしれません。
息を吸う
鼻からゆっくり息を吸い込み、横隔膜が下がることでお腹が膨らむのを感じます。
このとき、肩や胸が上がらないように意識します。
お腹が風船のように膨らむ感覚を持つことがポイントです。
息を吐く
声を出す際には、横隔膜を使って息をゆっくりと吐き出します。
このとき、喉に力を入れず、腹部や横隔膜のコントロールで呼気を調整します。
実は「お腹が膨らむのを感じます」とか「お腹が風船のように膨らむ感覚」というのが厄介な表現です。
骨格や筋肉のバランスが悪い状態でこの表現通りの意識を持って呼吸法を練習すると間違った呼吸を習得する可能性が高くなります。
呼吸法を間違うと練習すればするほど下手になり、喉が痛くなるという負のスパイラルが続きます。
この負のスパイラルはかなり厄介で、間違った呼吸法から抜け出すことが難しくなります。
実際に他の声楽レッスンを受けて伸び悩み、私たちのレッスンに来る生徒にはこのパターンが多くいますので、皆さんも注意してください。
③丹田(たんでん)の意識

丹田は「たんでん」と読みます。
丹田(たんでん)の意識は、声楽において古くから教えられてきた発声法です。
音楽大学の声楽科を卒業した人ならば、よく知っているワードで、基本中の基本となります。
”丹田の意識”と書いてありますが、声楽において”意識”という言葉は、多様されます。
『声を頭に当てるように意識して』とか『後頭部が引っ張られるように意識して』とか『胸に響かせるように意識して』といったように声楽指導者によって様々な表現が用いられます。
この指導者の”意識”と生徒自身の”意識”が一致しなければ意味のない指導になります。
『①発声における身体能力』で説明した骨格や筋肉のバランスを整えることにより、”意識の一致”がはじめて生まれるのです。
指導者の伝えたい身体の動きがおもしろいように理解ができるようになり、意識して動かせるようにリンクするといった方がよいかもしれません。
”丹田の意識”は、その代表的なものです。
なぜなら、丹田は身体の部位のことではないからです。
丹田は、東洋医学や武道、ヨガ、気功などで重要視される体内のエネルギーの中心とされる場所です。
意識の重要性
普段私たちは、意識して指や足、腕などの筋肉を動かすことは簡単です。
スマートフォンの画面をスクロールすることも簡単だし、信号が赤に変わりそうな時は、大きな意識を働かせることもなく「よし走ろう!」と思えば走ることができます。
しかし、発声するために必要な横隔膜も私たちの日常の生活(話したり呼吸すること)で動いていますが、意識的に動かしているものではありません。
特にミュージカルやオペラを歌うための横隔膜も含めた呼吸筋の運動は、私たちの日常生活では経験する事がないレベルの大きな運動です。
日常で激しく動かすことがない筋肉は、通常の脳の指令で動かすことは困難です。
それを動かすためには、”動かす意識”と”動かすための身体のポイント”が重要になります。
その意識は、非常に研ぎ澄まされた感覚が重要になるのですが、骨格・神経・筋肉のバランスに問題があると、”動かす意識”と”動かすための身体のポイント”を探し当てることができません。
丹田の意識は、感覚的なものなので①身体能力と②呼吸が体の中できちんと繋がっていないと理解することはできません。
プロを指導している私たちのボイストーレニングの現場でさえ、このような現実に多く遭遇します。
ですからこの記事の内容は、声楽の『基本の木』である①身体能力に大きく比重を置いてい流のです。
話しを丹田に戻しますが、丹田は主に三つの位置に分けられます。
特に下丹田(したたんでん)がよく知られています。
3つの丹田についても軽く触れておきます。
3つの丹田
上丹田(じょうたんでん)
眉間や額の中央に位置し、精神や意識の集中を司る場所とされています。
中丹田(ちゅうたんでん)
胸の中央、心臓の近くにあり、感情や気持ちに関係する場所とされています。
下丹田(したたんでん)

おへその下、約5センチメートルのところに位置し、生命力やエネルギーの源とされています。武道やヨガで体の中心と見なされ、呼吸や気の操作を行う際に重視されます。
下丹田は特に「気」を蓄えたり、コントロールしたりするための場所と考えられており、瞑想や呼吸法の際に意識を集中させることで、心身のバランスを整える効果があるとされています。
また、武道では体の重心を下丹田に置くことで、安定した動作や強い力を発揮することができるとされています。
ミュージカルの発声や歌い方において丹田を意識することが重要なのは、丹田が発声の基盤となる「腹式呼吸」と深く関連しているからです。
具体的な理由は以下の通りです。
安定した呼吸と強い声を生む
丹田を意識することで、腹式呼吸が促進されます。
腹式呼吸は肺の下部までしっかりと空気を取り込むことができるため、より多くの空気を使って声を出すことができます。
この結果、安定した息の流れが確保され、強く響く声を生み出すことができます。
声のパワーと共鳴
丹田を意識することで、声を身体全体に響かせることができます。
特に下丹田を使って声を支えることで、声が強く、豊かに共鳴しやすくなります。
これは、ミュージカル俳優が大きな声で広い劇場内に声を響かせるために不可欠です。
長時間のパフォーマンスでのスタミナ維持
ミュージカルでは、長時間にわたって歌い続けることが求められます。
丹田を意識して発声することで、余計な力を使わずに効率的に声を出すことができ、喉に負担をかけることなくスタミナを維持できます。
姿勢と体の安定
丹田を意識すると、体の中心が安定し、正しい姿勢を保ちやすくなります。
ミュージカルの発声では、正しい姿勢が声の通りや響きに直接影響を与えるため、体全体のバランスを取ることが重要です。
表現力の向上
丹田を中心とした発声は、声に深みや豊かさを与えます。
これにより、感情を込めた歌唱が可能になり、観客に対してより強い印象を与えることができます。
ミュージカルでは、歌だけでなく演技も重要ですので、声に表現力を持たせることはパフォーマンス全体の質を高めることにつながります。
身体全体を使った発声
丹田を意識することで、身体全体が共鳴体として機能し、より豊かで広がりのある音が出せるようになります。
これは、舞台で大きな声を出さなければならないミュージカルでは非常に重要です。
このように、丹田を意識した発声は、ミュージカルにおける声の力強さ、持続力、表現力の向上に寄与し、全体的なパフォーマンスを高める要素となります。
集中力と精神の統一
丹田を意識することは、精神を落ち着け、集中力を高める効果もあります。
ミュージカルのパフォーマンスでは、長時間にわたる演技や歌唱を集中して行う必要があるため、心身のバランスを取ることが求められます。
丹田に意識を置くことで、精神の安定が図れ、より良いパフォーマンスが可能になります。
これらの理由から、ミュージカルの発声や歌い方において丹田を意識することは、声の質を高め、安定した発声を実現するために非常に重要とされています。
④コントロール

これまでの説明で正しい姿勢や筋肉の使い方が、歌声に大きな影響を与えることはご理解いただけたと思います。
そして背中やお腹、足の筋肉を使って身体を安定させることで、よりスムーズでパワフルな声を出すことができることを学びました。
これは、楽器を正しい姿勢で演奏することに似ています。
ここからは、呼吸のコントロールによって声を響かせるポイントを見つけるフェーズに移ります。
響く声の源は共鳴
このフェーズでは共鳴が重要になります。
あなたは共鳴という言葉をご存知でしょうか?
声楽のレッスンを受けたことのある人なら、『大きい声と響く声は違う』と指摘されたことがあるかもしれません。
この”響く声”の源は、”共鳴”にあります。
共鳴は、声帯で作られた音が体のさまざまな部分(共鳴腔)で響くことです。
声の響きを豊かにして力強く遠くまで届かせるための重要なボーカルテクニックです。
ブロードウェイ俳優のあの爆発的な歌唱力は、これらの共鳴腔を意識的に上手に使うことで、豊かな音色や声のボリュームを得ています。
頭、鼻腔、胸など、体のさまざまな部位で声を共鳴させることで、声に深みと豊かさを加えることができます。
私たちのレッスンでは、〇〇共鳴を使ってといった指導はしません。
共鳴を教えるフェーズになっている生徒に対しては、この共鳴させる部位を指す言葉を”当てる”と表現しています。
「頭に当てて」といった感じです。声を頭に当てる意識を持つことで共鳴を得ることができるのです。
自分の声がどこに響いている(当てているのか)かを感じながら、声を”飛ばす”感覚を身につける必要があります。
これまで、意識のお話しをたくさんさせていただきましたが、この意識の集大成が共鳴になります。
レッスンでは「ここの部分から声を出す意識で!」といった具合に、このフェーズになると指導者からやたらと”意識”を指摘されることになります。
①身体能力、②呼吸、③丹田の意識を全段階をマスターした状態まで身体をもっていくと意識が覚醒し身体能力が非常に敏感に研ぎすまされた状態にあるため、指導者の言う”意識”がおもしろいように理解ができるようになり、美しく鳴り響いた発声が可能になります。
コントロールとは、息をコントロールする技術の意味でもありますが、意識のコントロールという意味でもあります。
正確には意識のコントロールでブレスコントロールを行うイメージです。
共鳴腔(きょうめいくう)
声を響かせるために使われる体内の空間を共鳴腔(きょうめいくう)と言います。
主に3つありますのでご紹介します。
1. 頭部共鳴(ヘッドボイス/頭声)

これは高音を響かせる際に重要な共鳴で、頭蓋骨の上部や鼻腔の奥の部分で声を共鳴させます。
高音を出すとき、頭全体が振動しているような感覚を持つことがよくあります。
この感覚に慣れない人は、最初は頭がビリビリするような不思議な感覚を持つでしょう。
この共鳴を上手に活用することで、クリアで強い高音を保ちながらも、無理のない発声が可能になります。
ミュージカルでは、ポップスタイルの楽曲や感情が高揚するシーンでよく使われます。
2. 胸部共鳴(チェストボイス/胸声)

低音や中音域では、胸部が共鳴腔として機能します。
胸や胸郭が振動しているような感覚を持つことで、声に深みや力強さを加えることができます。
深みのある力強い声を出すことができる特徴があります。
ミュージカルでは、感情的な歌唱や強い表現を必要とするシーンで男性歌手がこの胸声をよく使いますが、女性歌手でもドラマティックな表現に役立ちます。
3. 口腔・咽頭共鳴

声の中心的な響きを作り出す場所です。
喉や口の空間を利用して、声を豊かに響かせます。
口の開け方や舌の位置、喉の開き具合によって共鳴が変化し、適切に共鳴させることで歌詞の明瞭さと声のバランスを保ちながら表現力を高めます。
この調整によって、声の明るさや暗さ、柔らかさや鋭さなどをコントロールできます。
ミュージカルにおける共鳴腔の使い分け

ミュージカルでは、これらの共鳴腔をバランスよく使い分けることが大切です。
シーンやキャラクターによって、どの共鳴腔を強調するかが変わります。
感情豊かなシーンでは胸部共鳴を使って深みのある響きを、軽快でポップな楽曲では頭部共鳴を使って明るい響きを作ります。
また、歌詞が伝わりやすいように口腔共鳴を常に意識することも重要です。
ミュージカルでは、声の表現力が非常に重要であり、これを支えるのが共鳴腔の使い方です。
ミュージカルにおける共鳴は、演技と音楽を一体化させるための重要な技術です。
声を豊かに響かせながらも、感情を的確に表現するために、共鳴をコントロールする能力が求められます。
自然な声の響きを大切にしつつ、歌唱と演技の間でバランスを取ることが、ミュージカル歌手としてのパフォーマンスを向上させます。
まとめ

普通の日本語を話す日本人であれば、声楽と身体能力の関係については繋がりません。
私たちは、小学生から高校生の12年間の音楽の授業でそれについて習うことはありません。
また、一般的にも”歌は誰にでも歌える”という意識が当たり前のものとして浸透しています。
それは正解ではありますが、プロの舞台で歌うとなると不正解です。
ミュージカルは舞台芸術ですから、当然観客がいます。
そしてオペラのアリアのように高い音圧から繰り出される美しい響きで歌い、その歌声を最後尾の列の人まで届かせなければなりません。
しかも、高いお金を払った前列の観客は、マイクを通したあなたの声ではなく生声の歌を聴けることを期待しております。
全ての観客は、感動することを求めて(期待して)高いチケット代を払い、あなたの歌声を聴きに来るわけです。その感動を与えるのはあなた自身の身体から鳴り響く声以外にはありません。
このように舞台芸術の俳優の難しさは、自身の声を観客へどう伝えるかに集約していると言えるでしょう。
特にミュージカル俳優はそれが歌声となるわけですから、ストリートプレイよりも顕著に観客が反応します。
”歌は誰にでも歌える”という意識では、観客にあなたの歌声が届くことはないでしょう。
この記事では、ミュージカルの発声や歌い方を理解していただくために”声楽は身体が楽器”という基本概念から説明させていただきました。
結果的にかなり長い文章となりましたが、ミュージカルの歌唱法を文字で説明するにはこのぐらいの中身が必要となってしまうのです。
このWEBサイトに訪れたユーザーの何割の方が、最後の”まとめ”まで辿り着いて読んでいるかはわかりませんが、読んで下さった全ての方に感謝申し上げます。
この決して読みやすくない内容の記事を最後まで読めたこと自体があなたに探究心があることを証明しています。
探究心とは、物事の本質を見極めようとする気持ちや、深い知識を得たり原因を突き止めようとしたりする気持ちを指します。
この物事の本質を見極めようとする気持ちが、声楽において一番重要なことなのです。
その気持ちを大事にしてください。
もしあなたが現在なんらかの挫折や問題を抱えており、この記事がその負のスパイラルから抜け出すためのお役に立てれば、これほど嬉しいことはありません。
末筆ながら、みなさまのますますのご活躍をお祈り申し上げます。

