歌のフェイクが超絶上手いシンガーとフェイク練習曲を紹介

歌のフェイクが超絶上手いシンガーとフェイク練習曲を紹介

フェイクとは、R&Bの歌に花を添えるテクニックです。

アリアナグランデ、アギレラ、ビヨンセらはフェイクを自在に使いこなして、その個性に磨きをかけています。

では、彼女たちのようにフェイクを使えるようになるにはどうしたら良いのでしょうか?

フェイクが上達するためには、一定のルールが存在します。
そのルールを知らずに、いきなりアギレラの真似しても無理があるわけです。

ポップスの歌い方が時代によって変わるように、フェイクも時代によって大きく変化してきました。
時代が経過とともに、単純で簡単なフェイクから複雑で難しいフェイクへと変わったのです。
それには様々な時代背景が関係しています。

ですから、この記事では、その時代背景の説明と練習教材となるような楽曲を紹介しています。

声楽視点からの”R&B音楽史”みたいな記事は、書籍でもWEBでも見たことがありません。
この際キッチリ学んでおきましょう。

定義

フェイクに定義というものは、存在しません。

日本の民謡や詩吟で使われている節回しのように定義されていることもありますが、テクニックとしては少し異なります。

また、フェイクの捉え方は多岐に渡っているため、定義があいまいなのです。

あくまでも聴いた人がフェイクと捉えればフェイク、歌い癖と捉えれば歌い癖、イエ~イと捉えればイエ~イです。

例えば、1970年代前半の男性ソウルミュージックのフェイクを聞いても、今の10代のリスナーは、それをフェイクと感じないかもしれません。

フェイクというテクニックは、それこそ1950年代以前の作品からも聞き取ることができますが、この記事を読んでいる10代や20代は、1950~70年代のソウルミュージックやジャズの作品を紹介しても、アリアナグランデ、アギレラ、ビヨンセらと結びつけることは難しいでしょう。

この記事を検索した人は、現代のフェイクらしいフェイクを知りたくて、この記事に辿りついたのだと思います。

ですから、フェイクの定義を説明することはできませんが、”現代のフェイク”を理解するために必要な知識をまとめてお伝えします。
それにはR&B歌手が、明らかに”フェイクを声楽の武器”として主張し始めた90年代から紹介するのがベストです。

現代のフェイクは、”1990年”に”マライアキャリー”によって、産声をあげたのです。

フェイク記念日

フェイクは、R&Bの歴史の中で変化してきました。
時代によってフェイク自体のスタイルにだいぶ変化があったのです。

そもそもフェイクは曲の間奏の飾りや、サビからAメロに戻る時の抑揚、曲の後半部のサビの繰り返しの一部として用いられている程度でした。

要するに脇役だったのです。

しかし、ある時フェイクを全面に押し出し、フェイクを主役級の扱いをする歌手が登場しました。

その歌手はマライアキャリー。

マライアは1STアルバムvision of love の1曲目vision of love においてハッキリとそのメッセージを打ち出してきました。

1990年にマライアキャリーはこのアルバムで天下を取ることになります。
Billboard Hot 100で4週連続1位を記録。グラミー賞では、最優秀女性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞と最優秀新人賞を受賞。

1990年は、フェイクというものが多くの人たちに認知された記念すべき年となったです。

そしてR&Bの歌い方がそれまでの土臭い黒人特有の癖の強いものから、洗練され体系化されるきっかけとなったように思います。

ニュージャックスウィングの誕生

マライアデビューの1990年から、少しだけ時代をさかのぼります。
1980年代後半からニュージャックスウィングというR&Bが登場します。
ニュージャックスウィングは、それまで主流だった演奏によるR&Bではなく、80年代初期から盛り上がったきたシンセサイザー中心のR&Bサウンドです。

特にドラムサウンドがそれまでのリズムマシンではなく、サンプラーを多用することにより、太くエッジの効いた音やHIPHOP調のサウンドに仕上げることで、新たなR&Bの時代を作り出すことに成功しました。
このニュージャックスィングの仕掛け人は、天才テディーライリー(Teddy Riley)。

ニュージャックスウィングは、それまでのダンスミュージックより遥かにリズムが跳ねていることから、ダンスとの相性が抜群によく、新しいステップが次々に生み出された。
それがミュージックビデオで流されることで、新たなダンスミュージックのムーブメントを作りだすことになりました。。

この時期からR&Bの楽曲は、歌と楽器の演奏というスタイルから歌とリズムトラックが中心へと変化することになります。

機材もそれまでのシンセサイザーだけのものからAkaiのサンプラーが使い出されており、骨太のリズムトラックが使われるようになりました。そしてBPMがそれまでのR&Bよりも早くなりました。

80年代後半はスパイクリーなどの黒人映画監督も登場し、芸能界におけるブラックパワーが力を増してきた時期。

スパイクリーの映画の中にもニュージャックスウィングのグループが出演するなどしてニュージャックスウィングは世界的なブームを巻き起こすことになったのです。

その映画にも出演したテディーライリーのグループがGUY。

GUYのメインボーカリストであるアーロンホールはフェイク大好き男で、それまでの男性R&Bシンガーとはフェイクの用い方が全く異なりました。

フェイクを一つの武器として使いこなし、それがクールとされた時期です。

ヒット曲teddy’s jam テディーライリーのトラックにのせてアーロンが色々なフレーズを出している。

1:00ぐらいから長めのフェイクが始まります。

他にもGUYのバラードの名曲”Piece Of My Love”や代表曲”Groove Me“でも思う存分フェイクしています。

アーロンは、ソロで発表したアルバムもあります。
名曲 I miss you は、現在においてもR&Bバラードを代表する曲の一つであり、彼の集大成とも言えるでしょう。
しかもPVが泣けるので、絶対見ていただきたいです。

フェイクも洗練されたものになっている。見どころは47秒、2:15秒、3:19秒、3:59秒。

ニュージャックスウィングは、アップテンポの曲だとBPMが100~120以上のものが多いのが特徴。
BPMが早い歌は、その分だけ歌詞を多く詰め込むわけではありません。

例えばBPM120の曲であればBPM60のバラードと同じように歌えるものもあります。
だからBPMが早い曲はフェイクができる機会が、1曲の中で多くなるのです。

テンポはフェイクを行う上で重要な要素です。

技術の進歩によりシンセサイザーの音がダイナミックになり、サンプラーによるリズムが楽曲の中心になってきた事は、歌が他の楽器、例えばシンセサイザー等に近い存在になったことを意味します。

ですから歌手は、リズムに負けずに歌の存在をアピールする必要性が出てきたのです。
それには、フェイクという技術が相性がよかったのです。

フェイクの帝王が現れる

ニュージャックスウィングというそれまでと違うビートが生まれたことにより、新しい形のフェイクが誕生しました。

そういうフェイクを散々聴きまくって1人の怪物が誕生します。

その名はジョニーギル(Johnny gill)

元々80年代にnew editionというアイドルグループで一世風靡したが、アイドルで終わらず90年代を代表するR&Bシンガーにまで上り詰めました。

紹介するのはもちろんMY MY MY。

この曲はR&Bバラードの名曲中の名曲。

聴き所は全部。ずーっとフェイクしています。

ライブでは、曲がブレイクダウンしたあたりから、なぜかキングサイズのベッドがステージに現れます。

もちろん、ベッドシーツはお決まりの赤のシルク。

そして、女性のお客さんがステージに1人呼ばれ、始まる。

何が始まる?

それは、セック・・じゃなくてフェイクの雨あられ攻撃。
それでビッチ・・じゃなくて女性客が逝って終了となります。

ジョニーギルのマイクが、いつのまにか2本になっていることを下品だと思ってはいけません。

ソウルミュージックとは、変態の応援歌です。

コーラスグループの時代のフェイク

90年代初めにはニュージャックスウィングの熱が下がり新しい時代が始まりました。

それはコーラスグループの時代。

コーラスグループの時代になると、フェイクの質自体がかなり洗練されてきます。

フェイクの音がハッキリした音として聞こえてくるようになり、フェイクをしている時間も長くなりました。

フェイクにリズムが加わったのがこの時代です。

それは現在、アリアナグランデ、アギレラ、ビヨンセらがしっかりと受け継いでいます。

それまでのフェイク(ジョニーギルを除く)は、音符を追っているものでした。

しかし、ここから独特の節回しが加わることになりました。

フェイクの細かな音と音の間に角(エッジ)をつける方法になったのです。

この角を付けることで、パーカッションの作用を起こし独特のリズムを与えます。

角と角の間は微妙な強弱をつけることで、跳ねたリズムに調整しています。

文章に書いても良くわからないと思うので2つの例を見てください。

1曲目はボーイズⅡメンのlet it snow。

↑↑壮大なフェイクがスタートする時間から動画が、始まるようにリンクされていますので、ご覧ください。

ボーイズⅡメンは、良い子ちゃん過ぎてソウルマニアにはあまり評価されていません。

しかし、メインボーカルのWanya Morris(ウォンヤモリス)は最高のシンガーです。

そしてテクニックはハンパないレベルです。

歌手の良し悪しは、”年齢を重ねても上手い”というのが、一つの尺度です。
ウォンヤモリスは、49歳の今でもケタ外れな歌唱力を維持しています。そして、今現在でも彼を超える歌唱力を持つR&Bシンガーは、表れていません。
現在のWanya Morrisをまとめてくれている動画がありますので、紹介します。

声楽という観点では、R&Bシンガーはパワーで押したり、エロい雰囲気でごまかしたり、喉をつめていたり、呼吸法がイマイチだったりする人が多いのですが、Wanya Morrisは、声楽的にパーフェクト(100点)です。

男性ばかり紹介すると女性読者は、いまいちイメージがわかないかもしれないので紹介しましょう。

この時代、女性コーラスグループもたくさん生まれました。
SWV、TLC、JADE、Xscape

ソロではシャニースやトニーブラクストンといったところでしょうか。

この時代の女性コーラスグループは、歌い上げるタイプではありませんでした。

そのため、あまりフェイクのお手本がいません。

Destiny’s childの出現までしばらく待たなければならないのです。

ヒップホップソウル時代のフェイク

ヒップホップのトラックに歌をのせるのがヒップホップソウル。

アメリカでは90年代にヒップホップの全盛期を迎えます。

ヒップホップ全盛でもR&Bシンガーはスタイルを変えてしっかりとその存在を示しています。

ニュージャックスウィング後期に活躍したMary j BrigeやJodeciはヒップホップとの融合に成功した代表格。

しかし、この時代の歌手の歌い方は少し土臭いディープなものが多い。

練習用教材としては向いていないというのが筆者の見解です。

その中でもMonicaはポップで温かく、癒してくれる声質を持っています。

ニュークラッシックソウルの時代

ヒップホップソウル以降、R&Bはニュークラシックソウルの時代へ突入します。

この時代はフェイク暗黒の時代と勝手に呼んでいます。

ニュークラッシクソウルは70年代ソウルそのものみたいなところがあり、歌い方も70年代を真似ています。

音楽としては素晴らしいのですが、フェイクの教材には向きません。

そしてコレ以降、R&B自体がヒップホップに飲み込まれていくことになります。

歌はヒップホップトラックの飾りでしかない時代が続くことになるのです。

ヒップホップはリズムが強すぎる事とメロディーが貧弱なため、それまでの歌手の技法ではトラックに負けてしまう。

では、フェイクは途絶えたのかというと、そんなことはありません。

それは、脈々と受け継がれていくのです。

R&Bに世界ではなく教会で。

そう、ゴスペルです。

ゴスペル全盛期とフェイク

90年代から盛り上がりを見せるゴスペルですが、90年代後半から21世紀に突入してからその楽曲のクオリティーとクワイアの質は衰えることはありませんでした。

これまで紹介した歌手のフェイクをテレビやラジオで聴いて育ったアメリカの少年少女たちが、ちょうど教会のクワイアに入る時代です。

憧れの歌手の歌い方を真似したいのはアメリカ人も日本人も一緒。

これまで家や学校で練習しまくったフェイクを毎週日曜日に教会で競い合うように披露しました。

その少年少女たちによりフェイク自体の質もどんどん高度になり、ヒップホップのトラックにも負けないパワーに仕上がっていきます。

もう一つの変化

そしてこの時代、もう一つの変化が教会で起きます。

それまで教会の音楽ディレクターは、その教会で音楽教育を受けた素人が多かったのですが、音楽大学で正規の音楽教育を受けた黒人たちが、音楽ディレクターを努めるようになってきました。

これは、黒人の声楽において大きな変化を与えます。

クラシック音楽の発声法がソリストやクワイアーに叩き込まれることになり、それまでの土臭い黒人特有の発声から、クラッシクの発声を基本とした黒人の歌い方に変わることになりました。

それにより、声量は爆発的に大きくなり、呼吸法も改善されたので一回のブレスで歌える長さが倍増しました。

そして声の響きに艶が出て、広がりが出て、スケールが大きくなりました。

またクラシックの呼吸法を得たことにより、ライブ中にどれだけフェイクしてもシャウトしても喉がつぶれない歌唱法も確立されていきました。

こうして、それまでのR&Bとは比較にならないパワーと品性を秘めた歌手が次の時代を作っていくことになるです。

現在のフェイク

たくさんの黒人歌手によりフェイクはその可能性を大きく広げスケールを大きくしてきました。

そして、一時は瀕死の状態になったR&Bを再度復活させる要素の一つとなったのです。

アメリカのブラックミュージックの歌手が生き残るために、フェイクは大きく変化しました。

強く複雑なリズムに十分対抗できるだけのテクニックに成長した現代フェイクにもはや死角はありません。

Destiny’s childの出現

こういった時代の浮き沈みを経験することによりやっとDestiny’s childが出てきます。

だからフェイク教材として最後に紹介するのはもちろんビヨンセ。

フェイクの上達法はあるのか!?

これだけフェイクのPVを紹介したのには理由があります。

それは、フェイクは基本的にマネして覚えるしかありません。

センスの良いフェイクを何度も真似すればセンスの良いフェイクを自在に操ることができるようになります。

だから、逆に教えてもらわない方が良いでしょう。

教える人のセンスが影響するからです。

フェイクはマネで覚えるのが一番確実ですが、上記で紹介したようなフェイクをするには一つだけ絶対にマスターしなければならないことがあります。

それは横隔膜肋間呼吸です。

現代のフェイクは声帯の低い位置で節回しを行いコロコロと転がします。

声帯を低いポジションで維持するには、横隔膜肋間呼吸をするしかありません。

またフェイクの最中も、グルーブを出すために大きな息を吐き続けなければならない。

声楽においてそれだけの息を供給できるのは、横隔膜肋間呼吸です。

間違った呼吸法でフェイクを行うと本人はフェイクをしている気持ちでいても、聴いている方にはただの雑音に聞こえてしまうでしょう。

フェイクは正しくできれば最高の武器になりますが、間違った呼吸法で行うとただの叫びになってしまう諸刃の剣。

だから、上達法は?と聞かれれば迷わず横隔膜肋間呼吸と答えるしかないのです。